264 研究系及び研究施設の現状
青 野 重 利(教授) (相関分子科学第一研究部門兼務)
A -1)専門領域:生物無機化学
A -2)研究課題:
a) 一酸化炭素センサータンパク質 C ooA の構造と機能に関する研究 b) 酸素センサータンパク質 HemA T の構造と機能に関する研究 c) 新規な気体分子センサータンパク質の単離とその性質の解明
A -3)研究活動の概略と主な成果:
a) 一酸化炭素を生理的なエフェクターとする転写調節因子 C ooA は,これまで,紅色非硫黄光合成細菌Rhodospirillum rubrum 由来のもの( R r- C ooA )しか報告されていなかった。我々は,好熱性一酸化炭素酸化細菌Carboxydothermus hydrogenoformans中に,R r-C ooA のホモログタンパク質(C h-C ooA )が存在していることを明らかにし,C h-C ooA の構
造と機能の解明を行った。C h-C ooA の活性中心の構造,反応機構を遺伝子工学的手法および物理化学的手法を用い て検討した結果,C h-C ooA 中に含まれるヘムは R r-C ooA の場合とは異なった配位構造を有していること,C h-C ooA の酸化還元電位はR r-C ooA に比べ500 mV 以上も正にシフトしていることが明かとなった。現在は,これら性質の違 いがどのような生理的意義を有しているかについて検討を行っている。
b) 枯草菌中に含まれるHemA T は,本細菌の酸素に対する走化性制御系において酸素センサーとして機能するシグナ ルトランスデューサータンパク質である。本年度は,共鳴ラマンスペクトル法を用い,HemA T による酸素センシン グ機構の解明を行った。その結果,HemA T 中のヘムに酸素分子が結合した酸素化型HemA T では,ヘムポケットに存 在する 70番目のチロシン,ならびに 95番目のトレオニンと酸素分子との間で異なった相互作用を示す3種のコン フォーマーが存在することが明かとなった。また,95 番目のトレオニンは酸素分子の選択的センシングに,70 番目 のチロシンは酸素分子をセンシングした後のシグナル伝達に関与していると考えられる。さらに,HemA T が関与す るシグナル伝達機構の解明を目的として,HemA T ,ならびに HemA T からシグナルを受容するシグナル伝達タンパ ク質である C heA および C heW タンパク質から構成されるin vitro 活性測定系の構築も試みている。
c) 新規なセンサータンパク質として,硫酸還元菌Desulfovibrio vulgaris中に含まれるDcrA タンパク質を対象とした研 究を行っている。DcrA は,HemA T と同様,走化性制御系におけるシグナルトランスデュ−サ−タンパク質であるが, 現在のところ,どのような外部シグナルをセンシングしているかは不明である。本年度は,膜タンパク質であるDcrA のペリプラズムドメイン(D crA -N)のみを発現させ,得られたD crA -Nの諸性質の解明を行った。その結果,D crA -Nは タンパク質部分と共有結合したc型ヘムを含む,新規なヘムタンパク質であることが分かった。これまでに報告され
ているヘム含有型センサータンパク質はすべて,b型ヘムをセンサーの活性中心として有しており,c型ヘムを活性 中心とするセンサータンパク質は D crA が初めての例である。D crA -N 中に含まれるヘムは,酸化型では第6配位子 として水分子が配位した6配位高スピン構造をとる。ところがヘム鉄が還元された還元型DcrA -Nでは,2つのアミ ノ酸残基が配位した6配位低スピン型となる。また,還元型D crA -Nは配位飽和な状態にあるにも関わらず,C Oと容 易に反応し,C O 結合型を生成することが分かった。
研究系及び研究施設の現状 265 B -1) 学術論文
S. AKIYAMA, T. FUJISAWA, K. ISHIMORI, I. MORISHIMA and S. AONO, “Activation Mechanisms of Transcriptinal
Regulator CooA Revealed by Small-Angle X-Ray Scattering,” J. Mol. Biol. 42, 5133–5142 (2004).
T. OHTA, H. YOSHIMURA, S. YOSHIOKA, S. AONO and T. KITAGAWA, “Oxygen Sensing Mechanism of HemAT from B. subtilis: A Resonance Raman Spectroscopic Study,” J. Am. Chem. Soc. 126, 15000–15001 (2004).
B -3) 総説、著書
S. AONO, H. NAKAJIMA, T. OHTA and T. KITAGAWA, “Resonance Raman and ligand binding analysis of the oxygen- sensing signal transducer protein HemAT from Bacillus subtilis,” Methods in Enzymology, 381, 618–628 (2003).
B -4) 招待講演
S. AONO, “Biochemical and biophysical properties of the CO-sensor protein CooA,” The 1st Pacific-Rim International Conference on Protein Science, Yokohama, April 2004.
S. AONO, “Structure and function relatonships of the heme-based sensor proteins,” 2nd Asian Biological Inorganic Chemistry Conference (AsBIC-II), Goa (India), December 2004.
青野重利, 「気体分子センサーとして機能するヘムタンパク質の構造と機能」, 日本生物物理学会第42回年会, 京都, 2004 年 12 月 .
B -7) 学会および社会的活動 学会誌編集委員
J. Biol. Inorg. Chem., Editorial Advisory Board (2002- ).
B -10)外部獲得資金
奨励研究(A ), 「アンモニア酸化反応に関与する新規な金属酵素中の活性点構造とその性質に関する研究」, 青野重利 (1995 年).
重点領域研究(A ), 「特殊反応場触媒」「金属蛋白質中に含まれる遷移金属ク, ラスターの生体特殊反応場による機能制御」, 青 野重利 (1995年 -1996年).
重点領域研究(A ), 「天然超分子」, 「DNA 認識能を有する蛋白質超分子機能の金属イオンによる制御機構に関する研究」, 青野重利 (1995年 -1996年).
チバ・ガイギー科学振興財団 研究奨励金, 「一酸化炭素による遺伝子発現の制御:C Oセンサーとして機能するヘムを含 む新規なD NA 結合転写調節蛋白質の構造と機能に関する研究」, 青野重利 (1996年).
特定領域研究(A ), 「生体金属分子科学」, 「遷移金属含有型転写調節因子による遺伝子発現調節機構に関する研究」, 青 野重利 (1996年 -1999年).
住友財団 基礎科学研究助成, 「一酸化炭素をエフェクターとする新規な転写調節因子の生物無機化学的研究」, 青野重 利 (1997年).
旭硝子財団 奨励研究助成, 「一酸化炭素による遺伝子発現の調節に関与する新規な転写調節因子CooAに関する研究」, 青 野重利 (1998年).
266 研究系及び研究施設の現状
特定領域研究(A ), 「標的分子デザイン」, 「一酸化炭素をエフェクターとする転写調節因子の一酸化炭素応答およびD NA 認識機構」, 青野重利 (1998年 -2000年).
基盤研究(C ), 「シグナルセンサーとしてのヘムを有する転写調節因子の構造と機能に関する研究」, 青野重利 (2000年-2001 年).
特定領域研究 , 「生体金属センサー」, 「一酸化炭素センサーとして機能する転写調節因子 C ooA の構造と機能」, 青野重 利 (2000年 -2004年).
基盤研究(B ), 「ヘムを活性中心とする気体分子センサータンパク質の構造と機能」, 青野重利 (2002年 -2003年). 萌芽研究 , 「気体分子センサータンパク質の構造機能解析とそのバイオ素子への応用」, 青野重利 (2002年 -2003年). 東レ科学技術研究助成金 , 「気体分子による生体機能制御のケミカルバイオロジー」, 青野重利 (2003年).
基盤研究(B ), 「生体機能制御に関与する気体分子センサータンパク質の構造と機能」, 青野重利 (2004年 -2006年).
C ) 研究活動の課題と展望
これまでの研究において,一酸化炭素,酸素などの気体分子が生理的なエフェクター分子として機能するセンサータンパク 質が,ヘムを活性中心として含む,これまでに例のない新規なヘムタンパク質であることを明らかにしてきた。今後は,これら のヘム含有型センサータンパク質を始めとし,気体分子センサー機能を有する新規なセンサータンパク質の構造・活性相関 の解明を目指して研究を進めたい。